今日は私・ぼんぼちが惚れ込み、その作家の作品はおおかた読んだ、という小説家を時系列で挙げてゆきたいと思います。
先ず、一番最初に惚れ込んだのは、川端康成です。
中学の現国の教科書に「掌の小説」の中の一作品が載せられていて、それで惚れました。
ーーー具体的にどの作品だったのかは失念してしまいましたが、確か、少年が主人公の作品だったと思います。
それまで児童文学しか読んだ事のなかった私には、テーマの崇高さ、文体の美しさ、言葉選びの厳しさに、衝撃を受けました。
こんなきっかけで、中学時代は川端文学を読みあさった訳ですが、特に秀逸だと感嘆せずにはおれなかったのは「眠れる美女」ですね。
それ以前の川端文学は、美の表層をなぞる日本画的な描写ですが、「眠れる美女」では、ぐっと深層に入り込む洋画の如き描写に移行しています。
尤もこの作品は、晩年もう筆力が衰えた川端の代わりに三島由紀夫が書いた、という説が有力ですが。
高校になるとーーー
やはり教科書に載せられていたのをきっかけに、谷崎潤一郎に惚れ込みました。
これも何という作品だったかは、もはや憶えていませんが、短編で、同じく少年が主人公の物語だったと思います。
美術中高だったので、自分の将来に明らかに何の必要もないと判りきっている学科の時間、机の下で、寸暇を惜しんで次々と読破してゆきました。
中、これぞ谷崎らしさが最大限に放出されていて、かつ、文学作品としても実に結実していると感じたのは「痴人の愛」です。
谷崎のマゾヒスト性が大爆発し、悪女の極みといった美貌のナオミの魅力が、毒々しい色調で描かれています。
高校を出てからの九年間は、画家の仕事が忙し過ぎて、本など一頁も捲る余裕がなく、ようやっと私に再び読書の享しみが与えられたのは、毒母が死んだ二十七才の時でした。
その時から本腰を入れて読み始めたのは、野坂昭如先生です。
野坂先生の存在は中学の時から知っていて、「真夜中のマリア」と題された短編集を一冊読んではいたのですが、中学生にはあまりにも難しく、一冊で本棚の奥深くへしまい込んでしまっていました。
ふと思い出し、「今、読んでみたら違う感慨が生まれるんじゃないか？」と、本棚奥から取り出し、再読してみてーーー惚れました！
以降、むさぼる様に、野坂先生の文庫本を買いあさり、読みあさってゆきました。
個人的に殊に嗜好に合ったのは、「子供は神の子」と「マッチ売りの少女」ですね。
私が野坂文学のどこに惚れ込んだかというと、子供を妙な大人目線のフィルターにかけた天使の様に無邪気なものだと夢想しておらず、現実の残酷性を描ききっている所と、女性にも、フェミニストの男性にありがちな非現実に美化させた理想の女性像を創作しておらず、これでもかというほどに汚らしく堕としている所です。
次に惚れ込んだのは、久世光彦さん。
そう、TBSを経てカノックスを立ち上げた、昭和を代表するかの敏腕プロデューサーです。
四十才を過ぎた頃だったでしょうか、、、古本屋で偶然、私小説ともエッセイともつかない軽いタッチでありつつも文学性溢れる短編集に出逢ったのがきっかけで、「あぁ、久世さんって、晩年は作家活動も精力的にやられてたんだ！」と知り、古本屋を巡り、久世作品を収集してゆきました。
短編では前述の、私小説ともエッセイともつかない 虚構と現実の狭間を行き来する作品群、長編小説では、美しき狂女しーちゃんを回想する「早く昔になればいい」が、突出して優れていると思います。
また、久世さんの特徴というのは、男性でありながらも女性性もはらんでいる所、デカダンスを美しく陶酔するが如くに創作している所にあると思います。
そして、今、寝しなに頁を捲っているのが、井伏鱒二氏です。
きっかけは、井伏氏は「荻窪風土記」に見られる様に、荻窪に長く住まい、現在、私が住んでいる西荻窪とは隣街なので、親近感を覚えたからです。
古臭くて堅い作品ばかりだろうと思いきや、いやはや、これがいい意味で裏切られ、惚れ込んでしまいました。
軽快で庶民的で、それでいて文体が見事！ 殊に、ラストの〆め方がものものしくなく、「あ、この何気なさで了えていいんだ！」と、非常に勉強になります。
絵画に例えると、十二分にキャリアがあるために、観る者をほっとさせる余裕のある描き方で、なおかつ写実から離れていないがっちりした風格のある画風、といった所です。
井伏文学の真骨頂は、何といっても、人間の日常のおかしさと哀しさを同士に描いている所でしょう。
と、まあ、私・ぼんぼちは、人生の中で以上の小説家に惚れ込み、耽読してきた訳ですが、一つ共通してどの作家にも言える事があります。
それは、どの作家も、真にその作家らしく、その作家の魅力を最大限に発揮しているのは、世間一般で「代表作」と言われていない作品だという事です。
川端なら「伊豆の踊り子」「雪国」ではなく、谷崎なら「細雪」ではなく、野坂先生なら「火垂るの墓」ではなく、久世さんなら「乱歩〜」ではなく、井伏なら「黒い雨」ではない、と。
ミュージシャンの楽曲で、シングルカットA面の曲が、一般的にはウケてもファンにはアルバムの中の隠れた曲の方が評判がいい場合が多い、というのと同じかも知れません。
この記事へのコメント
猫の友 メルティー
残されていますね。
中学生の時、通った西荻の貸本屋が懐かしいです。
kazukun2626
踊り子の舞台天城を歩いたりしてました
ごま大福＠まろ
ただ代表作でつまづいた人は読まなくなるので、
なんか勿体無い気もします。
かくいう私もその1人^^;
HOLDON
美術だけでなく文学まで。。。。
素敵です。
ライス
中学生までは読書が楽しくて、図書室・図書館に浸ってましたが、
高校生以降はバイトと部活・同好会中心で、
社会人になるとプライベートの時間に余裕がなく、
（通勤電車の時間はありますが混雑と雑音で集中できません…）
気が付くと読書はしなくなってました。
定年退職してから読書再開したいですね、遠い未来ではないですが。
なかちゃん
lamer-88
あの故映画監督をマイクでなぐったでしょう。
原稿取りの出版社社員に居留守をしたり、屋根を伝わって逃げたり。
都はるみの親衛隊だったり。
また、読んでみたくなりました。
トモミ
Take-Zee
御殿場方面に行けば涼しいかと往復200キロを
走って来ましたが、気温は同じでした (;.;)
つぐみ
古典文学を読み始めた方がいいな、と思うこの頃です。
naonao
代表作ではない作品なんですね(^○^)
sara-papa
仕事柄専門書を読むことも多かったですが、時折読む昔の椎名誠さんの作品に癒されていました。
久しぶりに本の雑誌手に入れようかなぁ。
KINYAN
ヨッシーパパ
kiyotan
エロ事師たち騒動師たちとか。
ぼんぼちさん井伏鱒二さんも好きなんですね
＞＞
井伏文学の真骨頂は、何といっても、人間の日常のおかしさと哀しさを同士に描いている所でしょう
＜＜
井伏氏 詩も書いていたんです
おっしゃる通り残酷な描写でありながら生きることの
おかしさと哀しさをユーモアで包んでいる詩
最高です。
そらへい
最近、じっくり再読できていません。
若いころより時間あるはずなんですが。
藤並 香衣
ゆっくり本を開いてというまもなかなか取れないのですが
いつかのんびり読んでみたいです
hirometai
井伏鱒二は阿佐谷にも住んでいましたね。
好きな作家です。
よく熟れたミニトマトなのかな？
coco030705
ここに挙げられている小説は、題名だけ知っていて、読んでいないのがほとんどです。
まずは、川端康成の「眠れる美女」を読んでみたいと思います。
hana2024
難しい文章うんぬんと言うより、年頃の好奇心と言うものだったかと。
井伏鱒二氏の文章には格調の高さを感じます。
野坂昭如の書いたものも色々読みましたが、「マッチ売りの少女」は覚えています。
フヂ
なかなかぶっ飛んだお方で、作風も納得です。
甘党大王
ナントナク(^^ゞ雰囲気が分かる気がします。
私は単純物ばかりで育ったな(￣▽￣;)とｗ
でも、その中で一人だけ記憶に強く残っている作者がいました！
井伏鱒二(^^♪
この方の「山椒魚」・・・
確か小学校か？中学校？の国語の教科書に出てきたと思うんですけど
子どもながらに、ユーモラスに書かれてい入るけど
悲しいお話だな～～～と心がチクチクした記憶が鮮明です。
mau
斗夢
芥川賞直木賞では、直木賞派です。芥川賞派は読みきれません。
安奈
昔読んでつまらなかったけど、
年を経て読み返したらすごく腑に落ちて
楽しめる作品てありますね。
最近は視力が落ちて文章を読むのがきついのが残念です。
にのまえ
ぼんぼちぼちぼち
文学お好きなかたもそうでないかたも、あっしが挙げた作家を読まれたことのあるかたもないかたも、おはようございやす。
そうでやすね、読むべき年齢、別の言い方をすると、適性年齢というのがどの作家にもあると思うんでやすよね。
最後にあっしは井伏鱒二を挙げてやすが、中高の時に出逢ってたら、その魅力は全然解らなかったと思いやす。
中高の頃って、ガーンと強烈な印象を与えてくれる文学に惹かれるというか。
井伏文学の良さは、十二分に大人になって、すいもあまいも解るような年齢にならないと解らない、微妙な人生のキビでやすよね。
ほんとにタイミングよく出会えたと思ってやす。
井伏先生、詩や俳句も書かれてたの知ってやす。
やはり作家には、通底するテーマというのがありやすよね。
野坂センセイはねー、TVの露出も多かったし、面白いかたでやしたね〜
大島監督をなぐった顛末は、リアルタイムてワイドショーを観てて、大爆笑しちゃいやした。だって、理由が、自分が喋る番を抜かされたという子供みたいなことなんでやすから。
大島夫人の小山明子さんが、「あらあらあら」って感じで、笑いながら止められてやしたね。
そんな面白い野坂センセイでやすが、書かれるものは、テーマといい構成といい文体といい、ものすごいクオリティが高くて、それをあれだけ量産されているのだから、舌を巻いてしまいやす。
ここに挙げた中で特に好きな作家を一人選んで、と言われたら、あっしは野坂センセイを選びやすね。
川端の「眠れる美女」、意外にも挙げてくださったかたが何人も！
まあ、エロティックな作品でやすもんね。
思春期の好奇心で読むのもアリでやすよね。
また、逆に、男性は初老になってからあの作品を読むと、登場人物の心情が身に沁みて解るかも知れやせんね。
谷崎先生は、まじ、強烈なマゾヒストだったようでやすね。
それにしても谷崎先生のワンセンテンスは長いでやすね。
今だったら、読む気力がもうないでやす。
音楽に例えた所、共感していただけて嬉しいでやす。
最も解りやすい例えだろうな、と思い、使ってみやした。
やはり万人受けするものと熱烈なファン受けするものって違うんでやすよね。
熱烈なファンは、その作者さんなり演者さんの個性が強烈に出たものに特に魅力を感じやすもんね。
あっし自身、音楽に関してもそうでやす。
はなだ雲
久世光彦さん、井伏鱒二氏
いろんな敬称を使い分けられていて
なにか意味がありそうですね＾＾
横 濱男
文系苦手だったからなぁ～！！
たいちさん
暁烏 英（あけがらす ひで）
自分が好きなジャンルは、ノン・フィクションですね。師のほとんどが大宅壮一門生だったせいかもしれない。
ムサシママ
ぼんぼちさんの文章に関しながらさっさと退散いたします^^;
かずい
溺愛猫的女人
Rchoose19
文体があわないなぁ・・・どうもなぁ‥と思って
敬遠している作家の方が自分には多々tいます。
世間で代表作って言われてるものだけで駄目だししちゃって
ちょっと損をしたかなぁと思います^^;
でも、もう残りの時間は少ないし、
若い時の体力がないと、読み込めない作家さんもいますね！
ぼんぼちぼちぼち
そうでやすね、あっしは何事も狭く深くのタイプなので、1作品読んでみて、「この作家、好き！」って思えたら、その作家はほぼ全作品読んできやしたね。結果が上の作家達でやす。
ちなみにあっしの中での次点は、安部公房先生と車谷長吉さんでやす。
好きと思える作品数がちょっと少なくて、ここには入れられやせんでやした。熱烈に好きな作品もあるんでやすけどね。
その作家の真髄が大爆発しているものは、代表作以外にある、って、つくづく感じてやす。
若い頃はその理由が解らなくて「どうしてなんだろう？」と謎だったんでやすが、歳をとってから、「あ、音楽と同じ理屈か！」と気づかされやした。
審査員は、その作家の作品を全部読んでいるわけではないし、熱烈なファンでもないでやすもんね。
作家によって、敬称が違う、、、細かいところ、よく気づかれやしたなあ。
そう、あっしなりに理由がありやす。
川端康成と谷崎潤一郎に関しては、出会ったのが教科書で、あっしにとってはすでに文学史の中の人、というイメージが強かったから。
野坂先生は、TVで通称が「野坂先生」だったので、あっしもその敬称を使ってやす。
久世さんに対しても同じで、久世さんを初めて知ったのは、テレビプロデューサーとしてで、TVの世界で「久世さん」が通称だったので。
井伏鱒二氏は、まあ、隣街に住んでたという親近感でやすね。
井伏氏がよく通ったという「こけしや」という喫茶店（今は改装中）にもよく行ってるし。
あと、井伏氏って、一見、昔の人って印象でやすが、長生きされて、平成何年かまで生きておられたんでやすよ。
その点からも親近感を感じてやす。
あけがらすさんは、いろんなジャンルの文章をお学びになったのでやすね。すごく羨ましいでやす！
あっしも、中高で、作家の作品を読むだけでなく、自分で書くことも教わりたかったでやす。
ちなみに、あっしが社会人になってから、文章に関する事でお習いしたのはシナリオ作法だけでやす。
これは、某大手の研究所で学びやした。
みち
私はその頃「中学生日記」を夢中で読んでいました＾＾
馴染みのある地域が本の題名になっていると読みたくなりますね。
「三軒茶屋星座館」何だか、、、と思いながらも楽しく読んでいます。
ぼんぼちぼちぼち
そうでやすね、あっしは心も身体も大人になるのが早かったようで、上のような作家の作品を読んできやした。
自分にゆかりのある地名が出て来る作品は、読んでて楽しいでやすよね。
三軒茶屋を舞台とした小説、やはりあの怪し気な三角地帯が出て来るのかな？
八犬伝
好きだな、あの文体。
ぼんぼちぼちぼち
野坂先生の文章、ほんとに巧みで、舌を巻かざるをえないでやすね。
古典の文体を徹底的に勉強されたのだそうでやす。
TaekoLovesParis
ぼんぼちぼちぼち
絵のほうは母親を養う為の仕事だったので、まあ、詳しくならざるを得ない宿命にありやしたが、本は趣味で好きで読んでやした。
あっしの性格柄、色んな作家さんを幅広く読む派ではなく、惚れ込んだ作家さんをとことん読む派なので、代表作より云々ということが見えてきたんだと思いやす。
一番読んでたのは高校生の時。授業中、机の下で読んでて、ほんとに良かったと思ってやす！
yokomi
ぼんぼちぼちぼち
それまで児童文学しか読んだことのなかったあっしにとって、川端の作品は衝撃的でやしたね！
あ、そうそう、記事には書き落としてしまいやしたが、「片腕」という作品も圧巻でやす。